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火の星

 半年ぶりくらいになるでしょうか?。
 去年は忙しいのと怠け心で、小説はとんとさぼってしまいました。
 そいで、久方ぶりに書いたので、最初から書き込んでます。
 ブログでは、ちょっと迷惑かな?。
          
                火の星
   原作 中原 司
               プロローグ

 機体を貫いた衝撃は操縦機能を奪い、漆黒の虚空が目まぐるしく旋回した直後、突然赤い大地が目の前に迫る。
 強烈な衝撃から、どれだけの時間、意識が途切れていたのか。
 機能停止を明示する赤い点滅光の機内で、未だ機能しているスクリーンは、赤い大地を映し出している。
 虚ろな意識のままで眺めていると、ぼやけた視界がゆっくり広がってゆく。
 所々で燃えている火が照らす赤い大地。
 その上に広がる闇を切り裂く幾筋かの閃光は、定まった軌跡を繰り返し描写していた。 残った気力で目を凝らし、閃光の生じる一点を見つめた。
 そこには見覚えのある船影が写っていた。
 母艦であるMARS RECAPTURE号だ。
 すでに体の感覚もなく、ただ心の中で、やり遂げた満足感をぽつりとつぶやいた。
 (良かった、みんなは無事だ)

       ,第一章 再燃

 [対戦者”吹雪のコヨーテ”は、丘陵周縁に展開、防衛ラインに接近中。まもなく戦闘に突入します]
 「これなら楽勝だな」
 オンラインシュミレーションウオーゲームに興じるデュランは、示された敵の兵力に思わず冷笑した。
 他に相手がいるものを、よりによって強固な防衛ラインに対し、貧弱な戦力で攻め込もうとは。
 注意しなければならないのは、移動速度くらいだが、砲撃戦の法則も知らないのだろうか。
 しかも、少ない部隊を三つに分け、さらに戦力を弱めている。
 [敵はなおも接近中、”見習い隊長”は、作戦コマンドを入力してください]
 「さて、各個に撃破させてもらうとするか」
 散開させている兵器の照準を、向かってくる各々の部隊に向ける様に指示を出すデュラン。
 充分な兵力で、それぞれに包囲・殲滅するべく砲撃を開始した。
 ところが、敵は左右二つの部隊の移動方向を中央に移し、前方突出した小隊のスピードを少し上げ、残った部隊はその後ろに結集させて突っ込んでくる。
 すぐに敵に対応して、正面となる戦力の砲撃を強め、同時に側面攻撃をしかけて徐々に包囲し、敵の数を確実に減らしてゆく。
 「まずい!」
 しかし、予測しいなかった敵の密集突破は、正面となる防御ラインの兵力では薄いのだ!。
 より状況を悪化させているのは、こちらは拠点防衛要に重量級の兵器を多用していたが、相手は軽車両で移動力は高い。
 部隊を分けたのは、陽動だったのか。
 敵の先頭が攻め込むと、その後続が援護射撃。
 交戦している部隊はさらなる砲撃に混乱し、敵はやすやすと突破していく。
 泡を食って後を追わせるが、敵は突破した大半の車両を反転させて応戦し、後続の速度を上げて背後に迫る。
 こちらも包囲を狭め、急ぎ陣地を後退させる。
 最初に交戦した戦力はさしたるものではなかったが、その増援となる敵残存全戦力の接近は、こちらが左右からの増援が遅れることを心得てか、必要最小限の交戦ですりぬけ、さっさと先行した兵力を追いかける。
 陣地にはわずかな敵が接近、自陣の戦力に応戦を指示するが、残っている敵の全戦力その背後からが集結して突っ込んでくる!。
 自陣への敵の急襲に、呆気なくGEME OVERが表示された。
 楽勝のつもりが、とんだ敗退に終わってしまった。
 「歴戦の勇士もなめられたものだな」
 レクレーションルームの戸口の人影が、嫌らしく話しかけてくる。
 現実から逃れての娯楽でいたかったが、否応なく現実にひきもどすというのか。
 敵の不穏な動きのために、派遣されていた情報部員が、思惑ありげに近付いてくる。
 「私などは戦後に配属されて、戦果などありはしないし、ゲーマーでもない。歴戦の勇士などとはくだらない冗談だね」
 相手をしても面白くもない。
 デュランは軽くはねつけて、適当に受け流すつもりだった。
 「君のことではない。相手は百戦錬磨の、その世界有数の実力者だ。いかに君が任に付いた立場であるとはいえ、実戦経験も無いのに勝れるはずがないな」
 結果からそう言われても仕方ないが、正面切って言われると面白くもない。
 (ん・・・?)
 デュランはふと疑問に思う。
 取り立ててゲームが好きではないから、たまたま暇つぶしに参加したに過ぎない。
 したがって、相手のプロフィールを得るキーは手にしていない。
 もちろん、情報部員の口振りからすれば、この世界では知名度の高い相手だとは理解できる。
 「ということは、貴方とて認めざるおえない優秀な戦術家ということかな?」
 「ま、知らない方が良いこともある、それより重要なことは、君が本星の命令に対して怠慢だとされていることだ。先ほど火星司令部より、部隊隊長の解任と出頭命令が下った。エアポートで迎えが待っている、すぐに火星司令部に出頭すること」
 「それは情報部の怠慢からではないか!」
 デュランがはねつけるのも無理も無い。
 敵が新兵器の実験をしているのではないのかという懸念から、その現場に足を踏み入れ事実関係を確認しろとの命令を受け、デュランは配下53名を引きつれ、この地に赴いた。
 敵勢力圏までは目と鼻の先。
 しかしながら、ではどんな兵器を開発しているのかといった情報は、知らされてはいなかった。
 なんの情報もなく、したがって、どのような危険が待ち受けているのかわからないところへ、部下を送り込むわけにはいかない。
 その危険を調査するために部隊が派遣された、というのが情報部側の言い分だが、どのような危険があるのか、予備知識を与えるのが情報部の仕事ではないのか。
 対処できる情報がが得られるまで、出撃しないつもりでいたのだが。
 ここで問答をするだけの時間は、与えられていないのは自明だ。
 デュランは苦虫をかみつぶしながら、仕方なく立ち上がり、レクレーションルームから立ち去った。

 火星への移住が始まって、3世代が過ぎ、そろそろ4世代目に入ろうとしていた。
 人工衛星居住施設の実験の成功から、宇宙への進出は始まり、その後、地球から太陽系への移住は順調であった。
 この時から半世紀も待たずして、人類は火星への移住を開始し、あるいは太陽系の各所に、居住施設は建設された。
 新天地を得た人類は、互いに協力しあい、さらなる発展を遂げていた。
 それが半年前、火星で小さな戦争があった。
 地球の管理を離れて、移民者が独自のコミュニティを持とうとしたため、これを嫌った地球が引き締め策を押しつけたのだ。
 これに反感を持った一部の者が、ここ火星で決起した。
 当然、地球側はこれを完全に鎮圧し、再発を恐れてさらなる抑制措置を講じた。
 抑止力の行使によって、表面的には平和になっていた。

 未だに荒れた大地。
 気圧こそ、かろうじて人間の生存を可能にしてはいたが、未だ酸素は薄い。
 地表はゴツゴツとした岩場が、見渡す限り広がっている。
 遙か彼方で舞い上がる土埃。
 しだいにとどろく走行音、先行する一台と、遅れて走る数台の車両。
 岩場は所々で段差を成し、先行する車両は乗り越え、下り、飛び越して、目指す場所へひた走っていた。
 そのままでは、やがって断崖にさしかかり、車両は空(クウ)へ投げ出されるのに、先頭の車両はスピードを緩めようとはしなかった。
 この先頭車両は、バイクに装甲を被せ、回転方向を自由に変えることのできる小さな補助輪−自由運動子と呼ばれる−を左右側面中央上から下に刻まれた溝に配置して、格段に機動力を高めたランドライダーと呼ばれるものであった。
 本来は、希薄な空気から身を守り、未だ開拓されていない周辺地域に、遠出するためのものなのだが。
 その機動力を誇示するように、ランドライダーは急に姿勢を横に傾け、進行方向に対して車体を横倒しにすると、途切れた地面に姿を消した。
 横向きの体制のため車輪は空回りをしているが、切り立った壁面を自由運動子がとらえると、制動をかけて一直線に滑り落ちる。
 あるいは岩の突起を車輪がとらえ、スロットルとハンドルワークで斜めに突っ切り、窪みにさしかかれば軽やかに飛び越していく。
 地面に近づくと加速をかけ、進行方向に体制を戻し、壁面を蹴って宙に躍ると、大地をとらえて何事もなかったように走り去ってしまう。
 断崖の縁に取り残された、ランドライダーを含まない車両の一群は、走り去る行くえを見つめていたが、仕方なく岩場の切り口に沿って走っていく。
 目的地に着いたランドライダーは停車し、車内のツグミは天井のグリップを握ると、天井の装甲を後方にスライドさせて空け、上体を外に出した。
 目の前には、立入禁止を示すガードと、その向こうには広大な更地が広がっている。
 1週間前、この軍の実験場で、ツグミの兄は戦闘機のテスト飛行で墜落したのだった。
 先の戦争で両親を失って、軍に、いや戦争に嫌悪を向けているというのに、兄は自ら軍に志願したのだ。
 生活費を稼ぐためとはいえ、兄が憎み足りない軍に入隊したことは、ツグミには許せなかった。
 同時に、唯一の肉親を思う気持ちは強く、今となっては取り返しの付かない悔しさに、憤りが溢れるばかりだった。
 「アニキ・・・」
 ぽつりと呼んでみても、応える者はもういない。
 兄の命と引き替えに、軍からは多額の見舞い金が支払われた。
 金で兄が戻るわけでもなく、腹いせに全額つぎ込んで、このランドライダーを買ったというのがいきさつである。
 しかし、合点がいかないのは、兄の亡骸が無いということ。
 いかに事故が激しくとも、兄だと確認できない状態だとしても。
 人目でもいいから、兄を見ておきたかった。
 ツグミは上体を引っ込めると装甲を閉め、張り巡らされたガード沿いの遙か彼方に見える軍病院へ向け、ランドライダーを走りださせた。

 「マイセリー!、マイセリー!。しょうがないなぁ。もぉ終業のサイレンは鳴っちまったのに。おーい!、誰か連絡いれてやれ」
 広漠とした大地を造成して、徐々にではるが、火星の大地を人間が生活できる大地に変えていった。
 山のように大きな工事の機械が、一区画ごとに整地と工事を同時に行っている。
 未だ大気中には生活に必用なだけの酸素は無く、さらに火星特有のもろい土壌性質のため、人海戦術での作業は困難であった。
 このため、巨大な作業機械で、建築物と、これに付随する道路や上下水道などを、一つのユニットとして配置する。
 もっとも、人が気密服も無しで外に出歩けるようになったのは最近のことで、それまでは施設にこもって、大気圧の確保と気温の上昇に注力していた。
 近年になり、生活圏の敷地の頭上には、透明な屋根が一面に広がっていた。
 もちろん地球とは違って、放射線に対する自然のバリヤーが無いため、この屋根は火星での人間の生存には必要不可欠のものだ。
 また開発されている地域よりも遥かに広い範囲にパイプが四方八方に延び、ここから空気を採取し、酸素を回収・濃縮して生活圏に供給していた。
 それと同時に、火星特有の砂嵐などの砂の侵入を、生活圏から外への空気の流れで防止する設備が整っている予定だったのだが・・・。
 区画整備地区の近くには、直径600メートルにも及ぶ、巨大な移動式プラントがそびえている
 火星の過酷な自然環境に対抗するために、建造されたものだ。
 製造施設と生命維持設備を備えたこの建造物は、赤道上の火星開発拠点でいくつも建造され、自力で火星各所に散っていった。
 火星の環境がもっと適応性にとんでいれば、それなりに簡便な施設で生活拠点を拡大することができたはずだが、小さな施設ではできることも限られ、可能な限り機能を詰め込んだ施設を移動式にして、自らの生命の温存を計ろうとしたのだ。
 巨大であるがため、移動能力は極端に低く、それぞれが停留地を定めるには数ヶ月をかけていた。
 ましてこの場所は、火星開発拠点から最遠な所にあり、経度にして90度近く離れている。
 たとえ移動装置を装備しているとはいえ、火星の変化に富んだ大地を移動するのは困難なことは予測のつくことであった。
 それをあえて求めたのは、ある程度開発が完了した時点で、次の開発場所を求めて次々と移動していくことにより、生活拠点を加速度的に増やしていくためだった。
 ところが先の戦争で、開発地は戦禍にさらされ、プラントは格好の攻撃目標にされてしまった。
 コミュニティとてその重要性は理解しているため、致命傷を追ったプラントこそ無かったが、その被害は甚大であったために、ほとんどの地域の開発は、当初の計画から立ち後れてしまった。
 この僻地でさえ、すでにある程度の生活の場を確保していたが、設置された天井や空気の流れの制御は各所で破壊され、多くの人がプラント内に生活の場を移していた。
 現場監督は、プラントに戻ってきたマイセリーを捉まえる。
 「マイセリー、先に仕事を終わらせて体を洗っても、誰も文句は言わないさ。あんたもまだ若いんだから、男どもと一緒なのは気が引けるだろ」
 「みんなと入るから安心していられるんですよ。一人につけ入られのは避けたいですから」
 「そうだがな」
 マイセリーは現場監督とプラントに入り、住居区画に向かった。
 このプラントも、例外なく攻撃を受け、平和を取り戻した今でさえ、あちこちで修復作業が行われていた。
 生命を維持するために、最低限の気圧こそ確保できているとは言え、地表での作業環境は厳しい。
 それ以上に、プラントの本来の機能を取り戻さなければ、開発は進展しない。
 マイセリーが就業時間をとうに過ぎて帰ってきたというのに、通り過ぎていく通路のあちこちで、修復作業が続けられいている。
 プラントは巨大であっても、居住区画は一割にも満たない。
 80世帯の部屋数も、先の戦争でかなり空き部屋となっている。
 古来の集合住宅のような、共有トイレは不評であるが、それでも数ヶ所ある浴場は、気の合う仲間がそろえば和やかさも味わえて、文句を口にする者は余りいない。
 マイセリ−と現場監督は、いつものように、外で工事をする仲間と待ち合わせている浴場に、連れ立って入っていった。
 宇宙開発は地球とは違って、居住空間と資源・エネルギー確保の戦いがつきまとう。
 体を洗うことは、水すなわちもっとも貴重な資源を浪費することであり、これに垢や汗の中にも有機物が含まれているため、回収は必須であった。
 もちろん男女を分ける余裕も無く、開発地が少人数の頃では交互としていたところが、人数が増えるにつれ、いつしか混浴が当たり前になっていった。
 もちろん民族によっては入浴の習慣の無い者もいる。
 またシャワールームを個人用に仕切っている施設もある。
 しかし極寒の、しかも砂にまみれて働かねばならない火星では、日本の江戸時代の公衆浴場を模した浴場が、プラントには採用されていた。
 多少全てに渡って無駄な面があるが、僅かな空間に身を寄せあうことによって、仲間意識を培い、この日を生きられた感謝を共有しあう意図をもって提供されたのだ。
 脱衣所で衣服を脱ぎ、洗い場で今日の汚れを落とし、奥の風呂場に身を沈める。
 はなはだ狭く、肌と肌が触れあうのを気にかける人も多い。
 マイセリーにとっては目上で、しかも男ばかり。
 土木工事のセクションを、職場に選んだのだから仕方ないことだが、浅黒くゴツゴツとした男どもの中で、白く柔らかなマイセリーの肢体が、湯気の中で一際浮き出ている。
 「毎度のことだが、独り身でいさせるのがおしいな」
 「わたしにはその気はありませんから」
 「次の男に目を移すのは世間体もあるだろ。本人が考えることだから、お節介はしないことだ」
 「そうも言ってられないだろ、独り者は男だっているのだから、・・・なにかこう、押し倒して自分のものにできるなら」
 「そうそう、やりたいことをやれば、オルトーの海を見に行ける」
 「まてよ。あそこは彗星並の年月をかけて行き交うところだろ。そんなもん生きてかえってこれやしねぇ」
 「それが宇宙で生きる者の掟だからな。ま、節度を守っていれば、そういう羽目になりはしないだろ」
 現場監督にたしなめられた男は、さも冗談を言ったように、大げさに笑ってみせる。
 たわいの無い雑談で気心を探り合い、仲間意識を確かめるのがさも習慣でもあるように。
 「そら、オルスを頼むぞ」
 入り口の方からマイセリ−の舅のオーグスの声がすると、まだ10才にもならないオルスが湯船に飛び込んできた。
 しぶきが散り、いつものことではあるが、濡らされた顔を男達は手で拭う。
 肌を寄せるオルスを、マイセリーは湯の中でつねっていた。
 でも、オルスはにこやかな顔をしかめることもなく、マイセリーにしがみつく。
 「いい子にしていた風ではないから、叱ってもらわないとな」
 「ボク、おじいちゃんのそばで、大人しくしていたもん」
 「子供が元気なのは、いいことじゃないか」
 「ねぇオルス。悪く言われるの、良く言われるの、どっちがいい。お母さんだって、良く言ってもらえるオルスが好きよ」
 外は火星特有の砂嵐が、また吹き荒れだした。
 時に広範囲に起こる砂嵐は、人間が生活していく上で、大きな妨げになる。
 惑星改造が進み、砂嵐の規模も頻度も激減してきたが、それでも人間の生活に脅威であることには変わりない。
 造成地での暮らしが整っていれば、気象の変化を気に病むこともないのだが。
 綻んだ天井から吹きつけてくる砂は、肌を違和感にさらして訝しい。
 それでもなお、造成地での生活を営んでいる人達もいた。
 自室をほとんど出ることがないレイセンは、窓の外をうかがった後、掛け時計に目をやり、時間に気づいてパソコンデスクから離れた。
 立ち上がることのできないレイセンは、車椅子での生活を強いられていた。
 両親を失い、両足も失っていたが、日々の暮らしを自立して暮らしていた。
 来年には中学といった歳だというのに。
 もちろん自立歩行機械に頼れるところなのだが、気丈にも車椅子に執着して、自分のことは自分でする信念を貫いていた。
 戦争は絶えず弱い者に傷跡を深く刻む。
 家族を失う者、体を失う者、命を失う者 絆を失う者。
 まして心無い行為に、人は心を失いゆく
 苦痛にさいなまれながらも、生きてゆかねばならないのが、傷を刻まれた者の定めなのか。
 破壊された天井からうかがう空には、幾本かの飛行機雲が吹き抜ける砂の合間にに見えている。
 造成地を攻撃しにきたあの時と同じように、編隊を組んでいる飛来機を見いだしたママルは、不穏な気配を感じて眼差しに憤りが溢れる。
 「おねえちゃん、どおしたの?」
 「うんん、なんでもない。砂が吹きつけたから」
 戦禍は人を死なせゆく。
 残った者は生きてゆかねばならないが。
 孤児にされてしまった戦争に、まして孤児を生み出した戦争に、ママルはどうしようもない憤りを感じていた。
 地域は助け合って生活しているが、それでも親代わりを期待できる状況ではない。
 14才の少女が自立するには早すぎるが、年少の孤児の親役を自らに課せ、一つ屋根の下で3人の子供らと伴に暮らしていた。
 プラントにいれば何の心配もいらないところだが、荒れた家の修復をしながら日々を送っている。
 今は借り住まいに甘んじているとしても、修復が完了すれば、その家を与えてもらえる約束を取り付けたから。
 「速く家に入らないとあとが大変かな?。男の子達は帰ってる?」
 「男の子はずるい。いつも先に逃げて」
 「フフ、大きくなったら、その分仕事してもらうからいいの」
 「だって、ほとんどなにもせずに、遊んででばっかり」
 「男の子はね。でも仕事は大人から言いつけられることだから、その時が来れば、遊んでられなくなるのよ。速く家に入ろ」

 荒れた大地でも、鉄筋で建造物を立てるだけなら難しくはない。
 もっとも、場所によっては荷重のかけられない土壌性質もあるが.
 むしろその周囲を造成し、維持していくことが困難であった。
 軍の更地は均しているだけで、これといって他に手を加えているわけでもない。
 重力が小さく、大気の酸素も薄いため、戦闘機はロケットエンジンに近い構造のエンジンを持っていた。
 車輪も地面に合わされて造られているため、素地の短い滑走路から離陸することが可能であった。
 ここは敵側コミュニティの勢力圏にもっとも近く、その牽制のために軍が派遣されていた。
 一番大きな戦闘機格納庫やレイダードーム、地上軍の施設など、敵に対抗すべく、装備を整えている
 その中に軍病院があり、近隣の造成地から救難を求められれば、直ちに軍が向かう手はずが調えられていた。
 その軍病院の集中治療室では、ルシアがディスプレイに見入って話しかけていた。
 「気分は良くないでしょうけど、だるさや痛みはない?」
 ルシアはサイバネティックの民間医療技術者であった。
 技術革新から、過去には機械と生態を結合していくことは、いずれ容易になると楽観視されていたが、信号伝達の送受が正確になるにつれ、思わぬ障害がクローズアップされ出した。
 怪我などから体の一部を失い、機械に代行させてしばらくすると気だるさが続き、これがストレスになって、機能を維持していくことが困難になってしまうのだ。
 傾注されて何十年にもなるというのに、その解決策が見いだされなかった。
 それがルシアの研究により、今まさに解決されようとしていた。
 「そう、もしこれが順調に機能することが確かめられれば、あなたも外に出歩けるわ」
 返答はディスプレイに表示されるため、はたで聞いていると違和感を覚えるが。
 「言い方が悪いけど、実験材料が手に入ったのは運が良かった。この技術が確率できれば、体の機能を失った多くの人が、また普段の生活を取り戻せる」
 心無い気遣いの言葉をかけても、気休めにならないのは分かっていた。
 体の機能を失った者が、現実の生活でどれだけ困難に立ち向かわなければならないか、今までルシアは目の当たりにしてきたから。
 それよりも現実を認識させ、それに立ち向かわさせる励ましと支えを与えられるか。
 「生命維持関係は、ほとんど血液の成分分析で可能だけど、運動機能は神経伝達系が確立できないと無理だから。出歩けたら何がしたい?、家族や友達に合いたい?」
 ルシアは顔を曇らせて聞いた。
 「そうね。その方がいいかもね。でも実験材料にされてばかりはいたくないでしょ?。人としての尊厳が無くなったことにされたら、私のしてきたことの意味も無くなるから」
 研究の成果がある反面、ルシアは自らしている行為に呵責を感じてならなかった。
 「そうだけど。私で良かったらできるだけのことはさせて。実験材料にしてしまった、せめてもの罪滅ぼし」

 今回の砂嵐は、いつになく激しくなりそうな気配があった。
 戦争が始まってしまった、あの日と同じように。
 地球以外で暮らすのは過酷である。
 このことは、考えてみれば容易に理解できる。
 けれど、宇宙に要求を続けた。
 なのに、宇宙には耳を傾けなかった。
 そして、宇宙に反感を溢れさせた。
 主導権に執着する者は、その反感の拠点を押さえれば、沈静化すると考えた。
 それぞれの時代で、それぞれの人々がしてきたように。
 物量の差は歴然としていた。
 勝ち負けはする前から分かっていたと言ってもいい。
 だが終わってみれば、戦いは宇宙の随所に飛び火し、戦いの場から遠く離れた地球側の拠点さえも攻撃に曝された。
 地球上ではともかく、地球外で攻撃に曝されれば、人々はその場にとどまることはできない。
 民間人は避難しているものの、プラントや造成地を守る守備隊は、格好の標的にされ、
造成地は開発の推進どころか、復興の難しさを突きつけられたのだ。
 この地の造成地もほんの1月前に、前の住民達が呼び戻されてきたところだ。
 火星の開発は、大きく立ち後れてしまった。
 砂嵐の中、急に戦闘機の離陸が始まった。
 それから、そう間もなくもせず、サイレンが砂嵐を撒散らすように大きく鳴り響き、大地を震撼させるように、スピーカーからけたたましい声が発せられた。
 「接近中の飛行物体は、自軍迎撃機の警告を無視して攻撃!、同機は撃墜された!。繰り返す、迎撃機は撃墜された!。攻撃機は直ちにスクランブル!」
 格納庫から牽引車に引かれた攻撃機が次々と姿を現し、滑走路に乗り入れると、砂嵐を切り裂いて飛び立っていく。
 が、まもなく状況は深刻な事態に陥っていることを知らしめる。
 「敵陣地方位からスタンダップの侵攻を確認、すでに射程距離にあると思われます。約8分後に自軍エリアに突入」
 「8分後?、クソ!衛星が生きていれば!」
 静止観測衛星が破壊されているため、火星全体を常時観測できない。
 そのため周回軌道衛星の観測範囲がはずれるのを突き、地形の起伏を利用して、岩陰に潜みながらにじり寄ってきたのだろう。
 散発的なテロは今なお続いているとしても、敵は主力を率いて軍施設を攻撃しようとしている。
 しかも虎の子のスタンダップを投入して。
 地球側においては完全に近い二足歩行ロボット、CO(コンビーションオフィニシブ)を実践投入していた。
 残念ながら、本体とその運用に莫大なコストがかかるため、この僻地には配備されていない。
 一方コミュニティのスタンダップは、オートバランサーの開発の遅れとロボット自体の開発力の無さから、戦車を延長線上にした、立ち上がる機構を付加した未確立のロボット、と地球側は認識していた。
 かなり戦車よりは大型であるとしても、基本は戦車であり対装甲兵器や地雷で充分対抗できると考えられていた。
 しかし、すでに射程距離とあっては話が違う。
 警報が鳴り響き、非戦闘員には脱出の指示と、地上戦部隊には武装・散開させて敵の侵攻に備えさす。
 その割に、すぐには砲火を被ることは無かった。
 だが、しばらくして、先行してきた歩兵部隊が車両を軍施設周辺に乗りつけた直後、その突破口を作るための砲撃が開始された。
 砲火は短時間に局所に集中して行われ、破壊が途絶えると敵の歩兵部隊が一斉に雪崩れ込んだ。
 軍施設内の病院には民間人が占め、砲火の爆音と激震に慌てふためいて避難する。
 まして、病気や怪我で身動きが取れない者もかなりいて、病院関係者は人手の無さに悲愴感を顔に浮かべるも、取りこぼすことがあってはならないと、懸命に病室から病院内の駐車場に入院患者を搬送する。
 「速く!、急いで積み込みを」
 ルシアもサンドバギーを前に、60センチ四方程の装置の積み込みを、男二人に急がせていた。
 「装置は荷台に積んで、座席には患者を・・・、まだ二人は乗れる」
 男が積み込みに躊躇して、ルシアに訊いている。
 「馬鹿言わないで。彼をなんだと思っているの!」
 ルシアの突っかかりには男達も納得できない素振りだが、回りの車両が走り去るのに後れを取るわけにもいかず、ルシアに従って、後部座席中ほどに装置を積み込んだ。
 ルシアはもう一人の男に、後部席で装置を支持しているように指示をする。
 「けど、運転に文句言をわないでくださいよ。車両で遠出したことなど無いですから」
 無理も無い。
 ほとんどの人が、軍施設内のアパートで暮らしているため、火星の荒野を乗り物で走る経験をした者は軍関係者以外ほとんどいない。
 「速く出しなさい。このシステムを止める分けにはいかないの。研究データーが揃えば、沢山の人の生き方を助けることができるのだから」
 傲慢な研究家の言いなりは面白くないといった風だが、男はサンドバギーのエンジンをかけ、アクセルを踏み込んだ。
 屋外に出てみると、砂嵐が吹き込んでいる。
 天井がかなり破壊されて、送風機構も機能しなくなったのか。
 いや、敵の破壊工作が無い限り、これほどまで砂が舞い込むことはあるまい。
 3,40メートルくらいならともかく、それ以上となると視界ははっきりしなくなっている。
 敵に施設の背後を突かれた格好で、逃げ道は滑走路へ取るしかないというのに。
 それも味方機が、敵機を寄せ付けなければの話だが。
 スピードを上げて病院前を突っ切ろうとするが、目前に迫る障害物に気づき、咄嗟にハンドルを切る。
 銃弾はさほど飛び交ってはいなかったが、しばしば炸裂弾の飛散物が車体に降りかかる。
 状況は過酷で、尚且つ慣れない運転は、銃口を向けられるより背筋が凍りついたが、他に変わる手立も無く、皆一様に生きた心地ではいられなくなった。
 「なんでランドライダーが、あっ!吹き飛ばされた」
 運転していた男の声に釣られて見ると、30メートルほど先で、砲撃の巻き添えを食ったのか、それらしき車体が病院玄関近くで横倒しになっている。
 「無事なのかしら?」
 「今はかまってられないだろ!。生き延びるのが先だ!」
 後部席のルシアからの問いに、運転している男は砲火に脅え、踏み込んだアクセルを緩めようとはしない。
 「えっ?ええ、今出てきた。怪我はしていないみたい」
 ルシアの話し声が、他の誰かに対してなのかが不審に思え、運転している男はルームミラーでルシアの様子を窺った。
 ルシアは携帯端末のディスプレイを覗き込んでいる。
 「ランドライダーの運転者を拾うの?。あれが運転できるなら、バギーも運転できるに違いないと?」
 こんなところで止まれるか!、という気配が車内の空気を満たしていた。
 「スピードを落として!」
 ルシアは指示を出すと有無も無く、ドアをこじ開けるようにして顔を外にのぞかせ、通り過ぎようとするランドライダーに向けて叫んだ。
 「あなたバギーは運転できる?、できるならこっちに走ってきて!」
 ルシアの行動に車内の者は肝を潰され、ブレーキをかける。
 まだ年少者であろう、ランドライダーから出てきた者は、すぐにこちらに駆け寄ってくる。
 視界に入る近くの病院の壁面には、敵に対抗するべく、味方兵が身を潜めて散在している。
 「敵は同胞に対し、サイバネティックの開発機密の所在を問い詰めている。ここで開発している事実があるというのか!」
 怒りの向けどころにでもしているように、味方兵は一際大きな声で通信機に向かって叫んでいる。
 ここは火星司令部、すなわち軍や民間の中心地から最遠にあるため、高度な研究機関を設置するはずもない。
 まして民間人であり、介助を目的として研究してきたルシアにとって、敵が戦争を仕掛けてきてまで求める研究と、自分が研究してきた成果が結びつきはしなかった。
 「お見舞いに来たの?」
 ルシアはドア越しに、近づいてきた者に訊ねた。
 軍施設側では戦闘が続いていて、砂嵐に閉ざされた視界の中で、轟音をともなって閃光が見て取れる。
 外に立ち尽くした者はそちらに気を取られながら首を振ったが、すぐにまだ動いているバギーの運転席側に後ろから回り込んだ。
 「行き先はプラント?、他に逃げる当ては?」
 まだ子供とも言えなくも無いが、運転席に乗り込むと座っていた男を押しのけ、ハンドルに手をかけると同時にチェンジを入れ、アクセルを踏み込んでバギーを加速させた。
 まだドアを閉めていなかったルシアは投げ出されそうになりながら、やっとの思いでドアを閉める。
「乱暴ね!」
 「逃げ遅れて死んだんだ!、こんなところにいられるか!」
 鬼の様とはこういう顔なのかと、眥を釣り上げ眉間に皴を刻んだ、ルームミラーに写る顔をルシアは見ていた。
 そのうち、敵の装甲車両が逃げ出している車両の追跡を始め出しているのが、後方に首を振ったところで目に止まる。
 緊張感はいっそう高まるが、荒野に乗り出せばなおさら砂嵐が視界を阻み、逃げ延びれる充ての無さが不安を掻き立てる。
 「あなた名前は?、プラントから来たの?」
 「ツグミ」
 ルシアの問に、ツグミは名前しか答えなかった。
 バギーを運転しているのに集中しているのか、辺りの状況に視線を配り、チェンジを小刻みに入れ替え、荒野の起伏の激しい大地を走らせている。
 追っては偵察機も駆っていて、低空の機影が気にかかり、すぐに追ってらしき砂埃が後ろに迫り出す。
 と、前にも砂埃が。
 「追って?!」
 ルシアが叫ぶ。
 「いや、仲間のはずだ」
 ツグミは構わず迫り来る砂誇りの中に飛び込んだ。
 ツグミは窓を開け、顔を乗り出せて何かを叫んでいる。
 すれ違った車両の群れは、すぐに向きを変え、バギーに並走する。
 ツグミは上空の機影に目を移し、それから逃れるように岩陰へ群れを引き込むと、他の車両に乗り移るように指示をする。
 その間にツグミはバギーを手動から自動操縦に切り替え、GPSの地図にルートを書き込んでいる。
 このまま乗り続けることができない設定をしているのを見て、乗り合わせた者は有無も無くそれぞれに乗り移らされる。
 ツグミがバギーを放つと、それを合図に車両の群れは散らばり、距離をとってプラントへ向かった。
 バギーは最短コースを取って、プラントへ向かうようにセットされていた。

 「なんで警報が鳴ってるんだよ」
 プラントでも、少し前から警報が鳴り響いていた。
 「また戦争でも始まったのなら堪らないねえ」
 冗談だよと言っているように、ようやくのことで残業を終えた者は、談笑しながら語り合っている。
 「大変だ!、また戦争になっている。混乱していてよく分からんが、いたる所でコミュニティの攻撃を受けているらしい。軍経験者は直ちに武装して攻撃に備えよ、という指令が下った」
 これから休もうという時に、疲弊に打ち沈んだ記憶を呼び覚まされ、しばし立ちすくんだ脚は、小走りにプラント集会場に向かう。

 敵は明らかに、目的を持って侵攻してきた。
 そうでなければ、戦力の差が歴然としている中で、危険を冒してまで戦争を仕掛けてくるはずもない。
 兵士が問いただしていたあの叫びは、自分の研究と関わりが有るのだろうか?。
 緊張と不安から考えも整理がつかず、ルシアは外の風景を虚ろに見つめているが、砂嵐と爆走する車両が舞い挙げる砂塵は、視界を阻んで先行きを曇らせる。
 ツグミが運転してきたバギーは自動操縦のため、スピードこそ落としているものの、プラントへの最短コースを走って先行していた。
 ツグミの仲間の車両は散開して、舞い上がる砂埃の中に、他の車両を確認することはできない。
 上空の機影はバギーに近づいたが、すぐに高度をとり、少しの間待機したあと、すぐに後退していなくなった。
 間も無く間近にパイプが見え、砂嵐に浮き出るプラントの影が見えてきた。
 ツグミは車両をプラント前に乗りつけると、目と鼻の先にある区画整備地区の屋根を注視して、口惜しそうな小声で呟いた。
 「もう緊急避難がはじまってる」
 ドアを開けて降りようとしているツグミは、後席も振り返らない。
 「あっ、待って。私はルシア。危ない中をありがとう」

 「あんたが処置をしていないから、俺らがレイセンの面倒をみなけりゃならないんだ!」
 ツグミは捨て台詞を投げかけると、粗野にドアを叩きつけ、区画整備地区に走っていった。
 レイセンという名前には記憶が有るが、ツグミの記憶は定かではなかった。
 ただ、つい最近近隣の開発地区を巡り、戦争被災者の身体障害状況を聞き取り調査をしてまわっていた。
 こちらのことは、公報で知ることもできたであろうし。
 あるいは彼が、レイセンの世話を任された不満を抱えていると、今の物言いから詮索できる。
 診察の場に居合わせていたのか。
 が、今は身の安全を確保しなければならない身の上。
 ルシアらは車両を降り、近くの荷台を見いだし、積み荷をに移して一目散にプラントへ入っていった。
 プラントは公的施設のため、わずかに軍関係者がいるものの、非武装の民間施設でしかない。
 そのことが、先般のテロ行為の被害を拡大してしまったのであるが。
 そうした経験があったとしても、人類一致団結の元に火星開拓を推し進めるものとして、プラントやその付属施設は、非武装で有り続けようとしていた。
 警備用の小火器は多少あるとしても、とても軍備に対抗できるものではない。
 この場を襲撃されれば、今度はどこへ逃げのびるというのか。
 ルシアは司令塔に向かい、状況を問い質すために、司令室に入った。
 軍属なら情報を得ているものと、ルシアは上官の階級章をつけている者を見つけ、臆せず問い質した。
 「私は軍病院に勤務しているルシアです。現在の状況は」
 「現在の状況は?、何が起こっているのだ。何のためにコミュニティはいたる所で武力を行使ししている?!」
 「それは・・・私が聞きたいのです」
 不安を面出させてか、軍人としての冷徹さは影を潜めた軍人が、向こうからルシアに近づいて来て聞き返す。
 「少なくとも、君は軍施設から逃れてきたのだから、逃げ出した時の状況は知っているのではないのか?」
 「いいえ、攻撃を受けたのはまったくの急で、直後に職場から避難したので詳しいことは何も」
 「そうか」
 呆れ顔といった面持ちだが、混乱の対処に苦慮しているといったところか。
 お互いが頭の中を整理しているように、間を持ち合ったあと、ルシアは問い返した。
 「いたる所というのは、他でもおこっているということですか?」
 「正確な情報を得ることができないほどな」
 「それでは私たちは、これからどうしたらいいのですか?、コミュニティとの交渉は?、マーズベースや地球からの支援は?、それよりこのプラントも攻撃の対象となる恐れは?」
 軍としての恐れを言い表した口ぶりは、ことさらルシアの不安を大きくさせ、沸き上がる不安を次々と吐き出させる。
 「戦闘が差し迫っているかどうかは分からない。我々は現時点でできる対応をしていくしかないのです。まずはあなたには退室を求めます。それからこれから戦闘がおこるとすれば、救護の対応も考えなければならないでしょう。あなたには、できればその治療に携わることを求めます」
 先行きの分からないことに答える術も無く、軍人は丁寧な言葉遣いで話を切り、ルシアから離れていった。
 追い出される前に、むしろここにいても求める答えのあても無く、ルシアは司令室を後にした。
 不安の解消はできなかった。
 このことに不満をぶつけたいところであるが、むしろ、差し迫った問題に対処しなければならないことを、そばにいる者に思い知らされる。
 「で、私たちだけ逃げてきたのでしょう?。それで他の同僚や患者の安否はどうなっているのです?。見放すってことですか?」
 「今考えているところです。あなたにしてみれば私が受け入れの確保というのはおかしいことでしょう。でもしていかなければなりません。それと、ここにも支援を必要としている人達はいるのです。あなた方は、その人達の所在と安全の確保をしてください。私はここにたどり着けた人達がいれば、受け入れ態勢がとれるように交渉します」
 聞くまでも無く、嫌みですよといった風の男の顔色に、ルシアは状況の確認と今後の態度を真面目に答えたが。
 やっぱり面倒を押し付けられるのかといった素振りで、男達はプラントの外へと向かう。
 残ったルシアは一人荷台を引き、医療事務所を求めて歩き出した。

 しかし、プラントにたどり着いたのは、同僚や患者ではなかった。
 騒々しく軍車両がプラント周辺に展開する。
 どこから現れたというものではなく、いつの間にかプラントの回りは取り囲まれ、近づいてきた車両の音と、乗員の発する命令の強い声が、プラントの中まで響いている。
 「これからプラント集会所で今後の体制を指示する。集合可能な人員に連絡。及びプラント内、造成地に同時放送、いいな!」
 一番階級が上らしき士官が、配下に命令を下す。
 指示を受けた配下の者は、敬礼を決めて、プラント内に駆け足。
 士官もカツカツとした足取りでプラントに入っていた。
 ほどなく施設全体に軍事放送が流され、これから行われる指示に従うよう指示している。
 プラント集会所では、先の警報とともに、かなりの人が集まっていたが、混乱している情報から、適切な行動の選択ができず、未だこの場にとどまっていた。
 ことの対応に苦慮しているといったところか。
 そこへ、士官はそのカツカツとした出で立ちで、塊の集団を割るように進みゆき、壇上に上がった。
 その直後に配下の者たちは、放送機材を整えマイクを士官の前に据え付けた。
 「諸君!、現在我々太陽系連盟は、コミュニティと戦闘状態にある。我が軍は彼等の急襲を受け、余儀なく軍施設を放棄せざる終えなかった。同時に、先の戦禍後、再度攻撃を受けた場合、その地域開発を放棄し、プラントは速やかに火星開発拠点に終結させると議決されている。従って、プラントはこれより軍の管理下に置くものとし、速やかに火星開発拠点へ向けて移動を開始する」
 「逃げ出してきたものに、護れるというのか!」
 今し方入ってきたばかりのツグミが、後ろからあらんばかりの声を張り上げて怒鳴る。
 その声で、集団は一斉に後ろに振り向いたが、軍人は今後に向けた体制を、透徹して話を続ける。
 「事態の深刻さ、早急さは説明するまでもない。このため諸君らは我々軍に協力すること。体制は、軍、支援部隊、プラント維持、一般市民の階層に別け、これを地位として、物資の分配を相応のものとする。よって諸君らは、それぞれの地位に基づいて責任を持ち、さらに上位の地位を担えるよ勤めて努力する必要がある。直ちに面接を開始する。各自所属を申告し、与えられた地位に基づいて直ちに行動を起こすこと、以上!」
 士官は敬礼をして壇上を降りる。
 集団がざわめきを取り戻すまもなく、配下の者が机を運び入れ、雑然としている人々を強引に整列させていく。
 すぐに面接が開始され、強制的に地位が即決される。
 地位の決められた者は、囚人の扱いをうけているかのように、プラント集会場から追い立てられている。
 列の後ろにつかされたツグミにもすぐに順番が回ってくる。
 文句の一つも言う間も無く、机を挟んで座っている者がちらっと見上げて一般市民と告げれば、強引に出口に追い立てられる。
 体制作りは否応なく進められ、3時間もしないうちに、プラントは軍が完全に支配下においてしまった。
 プラントは即刻移動をするべく、準備を開始する。
 先程の士官はすでに司令部の主として、状況を収集しつつ命令を各所に発している。
 「プラントの移動能力に問題はないか?」
 士官は司令部の後方中央に据えられた、司令官席に足を組んで深々と座り、近くの部下に経過を訪ねた。
 手持ちの携帯端末を操作していた部下は、はっとして顔を上げ、士官の方に面を向ける。
 「はい、動力系、操作系には問題ありません、ですが」
 報告が詰まったのは、状況が芳しくないのにほかならない。
 「情報収集と命令伝達系統が、完全に復旧しているわけではありません。さらにプラントの稼働率は、70%を下回ると思われます。これには我が軍の技術者が復旧に携わるため、攻撃を受けなければ復旧は時間の問題です。警戒すべきことは、このメインコントロールルームに、全ての情報が伝達されていないことです。先の戦争で破壊されたことは、今回にも攻撃目標となりうることが想定され、司令部は、サブコントロ−ルルームに移動しておくほうが安全ではないかと」
 部下の報告には、さして聞いている様子は無かったが、進言が絡むと軍人は眉間に皴を寄せ、拳を顎に当てて肘当てに肘杖をついた。
 「司令部の移動はいつでもできる。まずはここの完全復旧をはかる」
 「はっ」
 部下にしてみれば、現実的な不安であったが。
 「今一つの問題は」
 「まだ何か」
 先の報告だけでも深刻な不安要素なのは、士官としても理解しているところだろう。
 さらに部下が付け足そうとすることで、軍人ははねつけでもするように、強く聞き返した。
 「はい、プラント外周部には居住区があり、この対応が我々にとって慎重さを要すると思われます。この居住区の位置づけは、プラントが深刻なトラブルに見舞われたさい、速やかにプラント外に非難することを目的としているのは周知の通りです。ですが出入りが容易である為、これでは敵の作戦目標にされかねません。攻撃目標、人質、あるいは扇動に対しての対策を早急にこうじなければなりません」
 「私もプラントについては予備知識を持っている。君に言われるまでも無いことだ。付け加えるなら、我が軍の兵員の休息をどうするかということもある。24時間移動し続けるプラントに対して、兵員の交替をどうするかは3番目の問題だが。2番目は敵の行動と対処、最優先事項はプラントの移動開始である。後のことはこれらをクリアーした後(ノチ)のことだ。したがって、君は敵の情報を収集しつつ、プラント移動開始状況をモニターしていればよい」
 「はっ」
 考えることは山ほどあるといった風で、軍人は部下に言い放つと腕組みに変えて押し黙った。
 だがことは、今までの経緯の延長線上にある。
 半日も過ぎていないというのに、いや、それでも猶予がありすぎたというべきか。
 軍施設の方向から、コミュニテの戦闘車両が進軍してきた。
 コミュニティからの降服要求に対しての拒否から、ほどなく戦闘が開始された。
 敵はスタンダップこそ投入していなかったものの、こちらを上回る戦力を投入しているのが見て取れる。
 けれど、彼らにとってもプラントや区画整理地区は、貴重な施設であることには変わりない。
 こちらは残存兵の寄せ集めといったところで、強力な戦闘車両は乏しく、敵もプラントを気づかってか、小火器を主力として、戦況は一進一退の消耗戦になっていた。
 これに業を煮やした敵は、空からの攻撃を加え、プラント周辺の防衛部隊を爆撃する。
 無論、こちらは後退を許される立場ではなく、殲滅されるのを待つよりは、敵の体制を突き崩すために突撃を開始する。
 この突撃は予想外のことだったのか、敵は呆気にとられほど急いで後退していった。
 突出する太陽系連盟側の車両に対し、コミュニティは爆撃だけで対抗しようとしていた。
 これをプラント周辺からの地対空ミサイルが撃墜していく。
 ミサイルの性能は高く、一方のコミュニティの誰でもが知っている戦闘機は、いささか古い機体といえるだろう。
 何機か撃墜された後、編隊を組んで飛び去った。
 ひとまず難を逃れたと思う間も無く、一機の見慣れぬ機体が高高度から飛来し、そのミサイルをかわして、司令塔にミサイルを撃ち込んだ。
 命中したミサイルは、司令室を破壊するのに十分だった。
 敵機は爆発を確認するように上空を旋回し、置き土産を何個も落として飛び去っていった。
 扇動のために落とされたスピーカーは、軍に対しては降服を要求しつつ、民間人の手厚い待遇を繰り返し唱えるとともに、しばらくの時間的猶予を与える旨の放送を流している。
 時間的猶予は問題ではなかった。
 それはもちろん、待遇など考えるまでもないことであった。
 太陽系連盟の締めつけに甘んじているコミュニティに同行すれば、自ずと待遇は後退していくことになる。
 もちろん、プラントをコミュニティに奪われることは同意である。
 つまるところ、戦うこと、火星開発拠点に移動を開始するしか、選択肢はない。

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